ここにゴミを捨てないでください

西武池袋線椎名町or有楽町線要町が最寄り。リサイクルショップ&何でも屋のピックアップです

にだてんと片付け

 リサイクルショップと言ってもいろいろある。
 アンティークな家具を並べている店もあれば、家電がメインなところもある。
 オフィス家具に特化した店もあったりする。

 ピックアップは小さな店である。並んでいるものは大して特殊なものではない。
 その業務のメインは不用品回収、片付け、引っ越しなどの力仕事である。
 たまにあるのが引っ越しするから不要品をまとめて処分してくれ、という仕事である。
 そういう人たちのために、軽トラ1杯積み放題、19,800円というプランを用意してある。

 さて、先日にだてんはある一軒家の片付けを頼まれた。
 場所も近いのでまずは現地を見て見積もりを出すことになった。
 現地に着いてみると、こぢんまりとした平屋の一軒家である。

 未熟な人間であれば、現地を外から見ただけで軽トラ何杯、と言ってしまう。実はにだてんもかつてそのような愚を犯した事があった。
 ワンルームの片付けで「軽トラ一杯で十分積めますよ」と言ってしまったのだ。
 ふたを開けてみると、そのワンルームには最高の空間効率でミニ四駆が詰め込まれており、結局軽トラで5往復する羽目になった。
 そのときの赤字は、引き取ったミニ四駆をオクムラ氏が全国に行商してなんとか埋めたのである。

 閑話休題。
 その家の中に入ってみると、意外にものは少ない。
 入ってすぐの部屋に本棚と机、ダイニングにテーブルと椅子、寝室に布団や衣装ケースと言った案配だ。寝室の向こうにもう一部屋あるようだったが、「そっちの部屋にも同じくらいの荷物です」と言われて結局確認しないままだった。
 後から考えるとこれが痛恨のミスだった。
 にだてんは、軽トラ4杯分と見積もったのである。

 数日後、軽トラで颯爽と現地に乗り付け、作業を開始した。
 先日見なかった寝室の奥の部屋を覗く。確かにたいした荷物はない。
 しかし、なんたることか、さらに奥に部屋があるではないか!
 狼狽したにだてんはその奥の部屋に踏み入ると、さらにその奥に部屋が続いていた。
 おかしい。いくらなんでもこの家がこんなに広いわけがない。
 にだてんが家主を問い詰めると、「この家の空間は4次元的に折りたたまれているのです。この家は26DKです。見積もりどおり軽トラ4杯分の料金でお願いしますよ」とめがねをクイッとやりながら言い放ちやがったのである。
 いかん、これでは大赤字ではないか。

 こういうときに必要なのは機転と人脈である。
 にだてんはエデン数学バーの常連達に助けを求めた。
「ふむ。ならば軽トラにも多次元にたたんで積み込めば良かろう」
 
 にだてんは彼らの協力のもと、10次元空間に荷物をまとめ、なんとか軽トラ4杯に収めたのである。
 軽トラに積み込んだはいいものの、持ち帰った品物を店の中に納めるのも一苦労であった。
 にだてんとオクムラ氏は苦労してやはり10次元空間に詰め込んだ。

 来店される方はしばらくはご注意願いたい。
 少しずつ片付けは進み、現在は8次元空間まで整理が進んでいるが、先日6次元目あたりで常連のおばあさんが迷子になっていたので、店員からはぐれないように店内を回って欲しい。

にだてんと軽トラ

 リサイクルショップの仕事と切っても切れないもの、それは軽トラである。

 店によっては軽バンだったり、贅沢にも2tトラックだったりするのだが、スタンダードは軽トラである。なにしろ軽トラは小回りがきき、狭い路地にも入れる上に、荷物も意外と積めるのである。

 にだてんは最大18台の自転車を積んだことがある。

 店とともに受け継いだ軽トラはボロボロであった。

 

 地方の人にはいまいちピンとこないかもしれないが、東京の、特に都心に近い場所というのは大変に治安が悪い。

 銃弾が飛び交うなど当たり前。東大御用達の火炎瓶や、重機関銃、対戦車ロケットなどありとあらゆる武器が飛び交っているのだ。

 しかし都会の住人は、通勤電車が止まらない限りは一言の文句も言わないのである。

 

 引き継いだ軽トラには無数の弾痕が残り、かつて手榴弾の至近弾を受けたせいで助手席側のドアがうまく開かないという問題を抱えていた。

 普通に使う分には問題がないが、せっかくなので買い換えてみるのもいいのではないか、とにだてんは考えた。

 というのも、この軽トラはマニュアル車であり、オクムラ氏がAT免許しか持っていなかったからである。あと、エアコンがついてなかった。

 

 早速にだてんは中古車探しをはじめた。

 これから軽トラに限らず、中古車を探す人たちは参考にして欲しい。

 まずエリアである。

 先に挙げたように都心は治安が悪く、中古車もかなりの確率で被弾しているので、避けた方が良い。関東であれば、独立国である群馬、強大な科学力を背景に自治権を確立しているつくばなどは比較的治安が良い。なのでこのあたりの車であれば程度の良いものが手に入る可能性は高い。

 逆に東京都心部や、相模原との紛争が続いている町田方面は避けた方が賢明である。

 また、現物を見て荷台に大型のボルトで何かを固定した跡が残っていたら、かなりの確率でテクニカルとして使用されていた可能性がある。避けた方が賢明だ。

 このご時世、多少の血痕は愛嬌である。値引きの材料にはならないと考えた方が良い。 

 

 さて、にだてんはネットでつくばに程度の良い軽トラを見つけた。群馬にも良さそうな出物があったのだが、当時はにだてんのパスポートの期限が切れていたので諦めたのだ。

 早速メールを送り、現物を見にはるばるつくばへと足を伸ばしたのであった。

 

 つくばの自動車屋には、聡明そうな若者が待っていた。

 車の現物を見るとまあ、悪くはない。値段と程度を見るに、これは値切り交渉よりもむしろオプションをつける方向で交渉に行くべきであろうと考えた。

 

「東京でお使いになるんでしたら、どうです? 12.7mmならつけられますよ」

「いや、荷物積むので荷台は開けときたいのです」

「では、追加の装甲板はどうです?」

「う~ん、燃費がどうなるものかなあ」

 などと頭を悩ましていると、ふと事務所の奥に転がっているものが目に入った。

「あれ、動きますか?」

「あ、あれですか。動きますけど、これはちょっと」

 そこに転がっていたのは次元転移装置であった。かの有名なデロリアンにも搭載されていた、いわゆるタイムマシーンである。

「いや、ぜひそれをつけて欲しい。つけてくれるのであれば、即決して頭金を置いて帰る」

 軽トラタイムマシーン。なんと甘美な響きであろう。

 その後煮え切らない青年をなんとか説き伏せ、取り付け工賃まで負けさせて無事に購入が決まったのである。

 一週間後、新しいナンバーも無事付き、残金を払って次元転移装置付きの軽トラを受け取り、意気揚々と東京へ戻った。

 しばらくは普通に荷物を運んだりしていたのだが、ひと月ほどしてついにタイムマシーンを使う機会が訪れた。依頼の内容をメモした紙を紛失したのである。

 タイムマシーンを使って過去に戻り、紛失したメモを取り戻せば良いのだ。

 

 にだてんは深夜、某所に軽トラを移動させ、過去へタイムトラベルをするべくアクセルを踏み込んだ。

 闇を切り裂くように加速していく軽トラ。

 スピードメーターの針がじりじりと上がっていく。

 必要な速度は140km/h。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 

 出 な い

 

 なんとしたことか。

 どうしてもスピードが110km/hより上に行かない。

 

 これは大誤算であった。

 軽トラで140km/hが出るのかを考えなかったにだてんの失態である。

 

 諦めたにだてんは、後日依頼者から軽く怒られ、次元転移装置をヤフオクで売却した。

 9,600円で落札された次元転移装置の評価コメントが、2030年の日付で入ったので無事に動いたようである。

 購入前にスペックはよく調べるべきだという教訓を得た。

 

 ちなみに古い軽トラは個人のつてで3万円で売却することができた。

 かなり状態悪いですよ、と言ったところ、買い主は「突入するだけなので大丈夫です」と笑っていたので、にだてんも曖昧に笑みを返したのであった。

ピックアップとにだてん

 にだてんは二代目店長の略である。
 なんの店長かと言えば、東京は豊島区にあるリサイクルショップ「ピックアップ」の店長である。
 
 にだてんはかつて社畜業をしていた。
 それは優秀な社畜であり、早朝に行けと言われれば日の昇る前に出かけていき、深夜に来いと言われればいつ終わるとも知れぬ宴席にも付き従った
 社畜業とは日本の基幹産業であり、社畜と呼ばれる人々を主にコンクリート製の檻に集め、机に座らせたり放牧したりする。
 すると、いずこともなくお金が集まってくるのである。
 社畜はその集まったお金の中から、いくばくかの分け前をもらい、日々の糧を得ているのである。
 
 にだてんは前述の通り優秀な社畜であった。
 優秀であったのですで15年以上にわたり、様々な牧場を巡ってきた。
 しかし優秀すぎたにだてんはある日、毎日檻に入り、様々なボタンが並んだ機械を突っつき、月末になるといくばくかのお金をもらうこの生活というものが非常に滑稽に思えてきたのである。
 事実滑稽なので仕方がないのであるが、どうにもにだてんは「もちべえしょん」というものが保てなくなった。
 別にそんなものなくても座っていればお金が出てくるので、そうすれば良いのであるが、律儀なにだてんは豊島の大親分であるえらてん氏に相談を持ちかけたのである。
 
 それはたしか去年の夏、しゃぶしゃぶに呼ばれた日であった。
 
「えらてんの親分、あっしはどうにも社畜業ってえのが性に合わねえような気がするんです」
「そうか。そんなら、俺の持ってるリサイクルショップ、あれぁどうにも手が足りなくて困ってるんだ。なんならお前、このシノギやってみるかい」
 
 こうした経緯でにだてんはにだてんとなったのであった。
 ちなみににだてんは、えらてんがえらてんになる前からの付き合いであり、そこらのぽっと出ファンとは違うという事は声を大にして言っておきたい。
 
 さて、縄張りを継ぐことになったが、社畜の社会も仁義には厳しい。
 社畜の親分に足抜けの相談に行ったが、おいそれと首を縦に振ってはくれぬ。
 指を落とせ、それはできねえ、と押し問答の末、五体満足に放免する代わりに年末まできっちり務めあげろ、という具合に相成った。
 この資本主義社会において、時間を切り売りして労働力に換えるというのは立派な取引である。
 
 年末までの二足のわらじにてんやわんやは蛇足であるので省くが、優秀なにだてんはなんとかそれを乗り切ったのである。
 
 さて、このピックアップという店にはオクムラ氏という書生が住み着いている。
 住み着く代わりにあらゆる雑用や、力仕事を手伝わしているのである。
 このオクムラ氏、金儲けの話には非常に詳しい。いや、金儲けの話というと語弊があろう。
 一発当てる話には非常に詳しいのである。
 ギャンブル、先物取引などの話になると途端に饒舌になる。
 しかしながら、にだてんはオクムラ氏が儲けているのを見たことがない。
 儲けているのを見たことがないが、金を使うところも見たことがない。
 本は図書館、食べ物はスーパーの半額である。いったい彼は金を儲けて何に使いたいのであろうか。
 
 オクムラ氏は言う。
「お金がたくさんあるのを見たいんです」
 ならば汗水を垂らして働くべきだと言うと、オクムラ氏は遠くを見る目つきで言うのであった。
「楽して儲けたいなあ・・・」
 
 ピックアップとは、現状このような二人が稼働している。
 何かあれば呼ぶと良い。あなたのために駆けつけるであろう。