にだてんと軽トラ
リサイクルショップの仕事と切っても切れないもの、それは軽トラである。
店によっては軽バンだったり、贅沢にも2tトラックだったりするのだが、スタンダードは軽トラである。なにしろ軽トラは小回りがきき、狭い路地にも入れる上に、荷物も意外と積めるのである。
にだてんは最大18台の自転車を積んだことがある。
店とともに受け継いだ軽トラはボロボロであった。
地方の人にはいまいちピンとこないかもしれないが、東京の、特に都心に近い場所というのは大変に治安が悪い。
銃弾が飛び交うなど当たり前。東大御用達の火炎瓶や、重機関銃、対戦車ロケットなどありとあらゆる武器が飛び交っているのだ。
しかし都会の住人は、通勤電車が止まらない限りは一言の文句も言わないのである。
引き継いだ軽トラには無数の弾痕が残り、かつて手榴弾の至近弾を受けたせいで助手席側のドアがうまく開かないという問題を抱えていた。
普通に使う分には問題がないが、せっかくなので買い換えてみるのもいいのではないか、とにだてんは考えた。
というのも、この軽トラはマニュアル車であり、オクムラ氏がAT免許しか持っていなかったからである。あと、エアコンがついてなかった。
早速にだてんは中古車探しをはじめた。
これから軽トラに限らず、中古車を探す人たちは参考にして欲しい。
まずエリアである。
先に挙げたように都心は治安が悪く、中古車もかなりの確率で被弾しているので、避けた方が良い。関東であれば、独立国である群馬、強大な科学力を背景に自治権を確立しているつくばなどは比較的治安が良い。なのでこのあたりの車であれば程度の良いものが手に入る可能性は高い。
逆に東京都心部や、相模原との紛争が続いている町田方面は避けた方が賢明である。
また、現物を見て荷台に大型のボルトで何かを固定した跡が残っていたら、かなりの確率でテクニカルとして使用されていた可能性がある。避けた方が賢明だ。
このご時世、多少の血痕は愛嬌である。値引きの材料にはならないと考えた方が良い。
さて、にだてんはネットでつくばに程度の良い軽トラを見つけた。群馬にも良さそうな出物があったのだが、当時はにだてんのパスポートの期限が切れていたので諦めたのだ。
早速メールを送り、現物を見にはるばるつくばへと足を伸ばしたのであった。
つくばの自動車屋には、聡明そうな若者が待っていた。
車の現物を見るとまあ、悪くはない。値段と程度を見るに、これは値切り交渉よりもむしろオプションをつける方向で交渉に行くべきであろうと考えた。
「東京でお使いになるんでしたら、どうです? 12.7mmならつけられますよ」
「いや、荷物積むので荷台は開けときたいのです」
「では、追加の装甲板はどうです?」
「う~ん、燃費がどうなるものかなあ」
などと頭を悩ましていると、ふと事務所の奥に転がっているものが目に入った。
「あれ、動きますか?」
「あ、あれですか。動きますけど、これはちょっと」
そこに転がっていたのは次元転移装置であった。かの有名なデロリアンにも搭載されていた、いわゆるタイムマシーンである。
「いや、ぜひそれをつけて欲しい。つけてくれるのであれば、即決して頭金を置いて帰る」
軽トラタイムマシーン。なんと甘美な響きであろう。
その後煮え切らない青年をなんとか説き伏せ、取り付け工賃まで負けさせて無事に購入が決まったのである。
一週間後、新しいナンバーも無事付き、残金を払って次元転移装置付きの軽トラを受け取り、意気揚々と東京へ戻った。
しばらくは普通に荷物を運んだりしていたのだが、ひと月ほどしてついにタイムマシーンを使う機会が訪れた。依頼の内容をメモした紙を紛失したのである。
タイムマシーンを使って過去に戻り、紛失したメモを取り戻せば良いのだ。
にだてんは深夜、某所に軽トラを移動させ、過去へタイムトラベルをするべくアクセルを踏み込んだ。
闇を切り裂くように加速していく軽トラ。
スピードメーターの針がじりじりと上がっていく。
必要な速度は140km/h。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
出 な い
なんとしたことか。
どうしてもスピードが110km/hより上に行かない。
これは大誤算であった。
軽トラで140km/hが出るのかを考えなかったにだてんの失態である。
諦めたにだてんは、後日依頼者から軽く怒られ、次元転移装置をヤフオクで売却した。
9,600円で落札された次元転移装置の評価コメントが、2030年の日付で入ったので無事に動いたようである。
購入前にスペックはよく調べるべきだという教訓を得た。
ちなみに古い軽トラは個人のつてで3万円で売却することができた。
かなり状態悪いですよ、と言ったところ、買い主は「突入するだけなので大丈夫です」と笑っていたので、にだてんも曖昧に笑みを返したのであった。