にだてんとクリスマスケーキ
世の中がなんとなく浮ついたクリスマスも終わった。
諸兄におかれては世間並みに浮かれて過ごしたのか、はたまた地底に潜むメクラチビゴミムシのように暗闇で一人過ごしたのか、にだてんの知るところではないが、少なくともにだてんはクリスマスケーキというものを食した。
どこかの店で買ってきた豪華なケーキというわけではない。また、腕によりをかけた手作りケーキというわけでもない。スーパーで集めた材料を使った、半手作りケーキといったところだ。
以前話したとおり、にだてんはお店の他にスラム街を煮染めたようなシェアハウスも持っている。そこの住人達と何かクリスマスらしいことでもしようということになった。
とはいえ、そこは底辺の民である。その話が出たのはクリスマスも終わろうとする12月25日の夜であった。教会暦でいえばとっくに終わっている。
にだてんたちはのそのそとケーキを探しに出かけた。
近所のスーパー、コンビニと回ったが、すでにケーキは全くの完売であった。
ケーキ売り場の跡地が寒々と広がっているだけであった。
諦めのよい、言い換えれば根気も根性もない住人たちは、チキンでも買って帰ろうと駄々をこね出したのだが、やはりここはなんとしてでもクリスマスケーキを入手し、諦めなければ道は開けるという事を身をもって示さねばならないとにだてんは強く思った。
幸い、スポンジ台の売れ残りを発見した。これでケーキの体積の大半は確保できた。
あとはこれにデコレーションをするだけである。
製菓材料であれば在庫も豊富にあろう。
……と思ったにだてんが甘かった。
ケーキのみならず、製菓材料もすでに売り切れていたのである。
しかし落胆するにはまだ早い。
現場は臨機応変が肝要である。
他の材料を応用すれば、ケーキごときすぐにでも作れるのである。
クリームの代わりは、田楽味噌がよかろう。
粘度も似たようなものだし、チョコレートに見えなくもない。幸い貰った柚子があるので、さわやかに柚子味噌を作る事ができる。
イチゴがないので梅干しで良いだろう。
梅だって果実の一種だ。生と塩蔵の差くらいしかないだろう。
てっぺんにはデコレーションとしてシュウマイを置いておく。
なんとなくキャンドルに見えなくもない。
グリンピースの緑がアクセントになってよかろう。
さてケーキも用意でき、夜通し騒いでもいいと思っていたが、存外にみんな疲れていたようで、ケーキを一口食べるなりすぐに寝てしまった。
まあ、早寝早起きは悪くないものである。
久しぶりに楽しいクリスマスが過ごせたにだてんであった。
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